研究テーマ2017年9月16日 JSETポスター

修士研究「アマチュア・オーケストラ団員たちの深まり――余暇における追求と学習環境」では,アマチュア・オーケストラを長期にわたって続けてきた団員たちのライフヒストリーを聞き取り,趣味活動にける面白さや目標の再発見=〈興味の深まり〉がどのように起きているのかを明らかにしました.博士課程での研究計画については,研究室のブログに記事を書いています.[link].また日本教育工学会において,「趣味を実践する学習環境における個人的興味と共同体の関係――アマチュア・オーケストラを事例にして」と題し,博士研究の視座のもと修士研究を再解釈したポスター発表をしました.

働き方モデルの変化や人工知能技術の革新にともない,「私たちはどのようにして人生を生きるべきか」という問題が切実に問われるようになっています.おそらく,望ましい生き方とは「与えられたコースを歩むもの」ではなく,「自分が本当に面白いと思えて重要なことを追求するもの」だと考えられていくことでしょう.このような生き方を,私はアマチュアとしての人生だと考えています.かつて,思想家エドワード・サイードは次のように述べました.

アマチュアリズムとは,専門家のように利益や褒賞によって動かされるのではなく,愛好精神と抑えがたい興味によって衝き動かされ,より大きな俯瞰図を手に入れたり,境界や障害を乗り越えてさまざまなつながりをつけたり,また,特定の専門分野にしばられずに専門職という制限から自由になって観念や価値を追求することをいう――「知識人とは何か」(1993)

こうした創造的で,愛好精神に突き動かされた「アマチュア」として過ごす人生はとても魅力的に思えます.

一方で,そうした人生を歩むことは簡単なものではありません.そもそも私たちは,人生をかけて追求したいような「面白いこと」をどれだけ知っているでしょうか.あるいは,たとえ追求したいことがあったとしても,それを追求するための知識やスキルをもっているでしょうか.追求することを支えてくれるような社会環境が身の回りにあるでしょうか.これらの条件を十分満たしている人と環境は,あまり見当たらないと思います.そうならば,「私たちはどのようにしてアマチュアとして生きることができるのか?」「社会環境はアマチュアとして生きることをいかにして支えられるのか?」を問うていくことが必要ではないでしょうか.

この問題に取り組むため,私は「大人の趣味を支える環境とはどのようなものか」観点から研究を行っています.

「趣味(hobbies)」に打ち込む大人たちは,仕事とは別のかたちで自分が深い興味をもつ活動を追求するアマチュアです.彼・彼女らは,趣味においてどのような面白さを見いだしているのでしょうか.その面白いことの実践を,環境はいかに支えたり,阻害したりするのでしょうか.趣味はこれまであまり学術研究の俎上に上がってきませんでしたが,学習科学における「興味(interests)」と,興味の発展や深まりを支える「学習環境(learning environments)」という枠組みを用いながら,こうした問題を解明しようと取り組んでいます.

研究を進めるうえでの主な領域は学習科学ですが,芸術文化活動の社会学やレジャースタディーズ,文化政策・アートマネジメントといった領域も視野に入れ,学際的に研究を進めていこうと考えています.