2018年6月23日 学校外STEM学習環境を知る会
杉山昂平(東京大学大学院学際情報学府)
ksugiyama@g.ecc.u-tokyo.ac.jp

National Research Counsil (2015) Identifying and Supporting Productive STEM Programs in Out-of-school Settings. Washington, D. C.: National Academies Press

効果的な学校外STEMプログラムの判断基準

1 若者を知的,社会的,情動的に関与させる

学校外STEMプログラムは,継続的にSTEM実践に関与するのに必要な時間,共同体,支援を提供できる.

1-1 現象や物質を直接体験できる

直接体験(first-hand)はハンズオン(hands-on)より広い意味をもち,場所を基盤とした調査や,複雑系のコンピュータによるモデリング,科学と社会の関係性の説明も含む.直接体験によって若者は問い,文脈,データに意味のある形式で関与でき,学習が導かれる.

エビデンス

学習環境 Community Science Workshop (CSW)

California Tinkering Afterschool Network(カリフォルニアの都市と農村部で放課後プログラムとパートナーシップをとる5つのSTEM組織のネットワーク)のうちのパートナーサイト.若者は工房に立ち寄って,好きな道具と素材で家庭で必要なこと(e.x. 庭の噴水),学校の課題(e.x. 動く投石機),工房で見つけた手本(e.x. 木製のトルティーヤプレスやルーブ・ゴールドバーグ・マシン)をつくってよい.若いスタッフが支援してくれる.

学習の様子

3人の女の子は,CSWが夏に地元の湖で開催するフィールドトリップに定期的に参加していて,その時に使えるカヌーをつくりたいと考えた.水に浮かび,2人で持ち運べるくらいの軽さの素材にしょうと決め,工房にある安価な素材をファシリテーターの助けをもらいながら探してみた.ダクトテープが軽くてかつ水をはじくのでカヌーの表面に適しているのではと考え,実験をした.小型のプロトタイプをいくつかつくったあと,カヌーを二艘つくるように計画を変更した.カヌーの骨組みはポリ塩化ビニールのパイプでつくり,見事フィールドトリップでカヌーに乗ることができた.

1-2 持続的なSTEM実践に関与させている

STEM実践には,問いを出し定義すること,モデルを開発し利用すること,調査を計画し実行すること,データを分析し解釈すること,数学的・計算機的思考を利用すること,説明を告知し解決策をデザインすること,エビデンスに基づいたアーギュメントに関与すること,情報を収集,評価,伝達すること,含まれる.STEM実践に直接関与することで,若者は自然現象や人工的環境を調査,モデル化,説明するのに利用できる様々な実践の価値を認めるようになる.

エビデンス

学習環境 Techbridge

放課後プログラムやサマープログラムを提供し十分なサービスが行き届いていない地域の少女がSTEMへの情熱を発見することをうながすNPO.Girls Scouts of the USAやYMCAと連携している.大人にはロールモデルやファシリテーターとしての研修を提供している.少女たちには参STEMの実世界への応用,ロールモデルと共にキャリアの探求,リーダーシップの促進を行っている.

学習の様子

あるプロジェクトでは,地元のリサイクルショップで選んだアイテムをハックすることにした.少女たちはまずアイテムを選び,つくりたい物をスケッチした.ある少女は仏像の形をした貯金箱の底にセンサーを付け,硬貨を入れると口が光るようにしようと思った.だが数週間取り組んでいるうちに,底にセンサーをつけるのではうまくいかないことに気づき,ファシリテーターの助けを借りながら別の方法を探った.そして,硬貨によって回路がつながれるとLEDが光る回路をつくれることに気づき,それを貯金箱に取り付けるとうまくいった.

1-3 協力的な学習コミュニティをつくりあげている

自ら問いを立て,問いを調査し評価する方法を考え,探求の結果を共有する経験は科学の基礎をなす.支援されていると感じられる若者は,一度失敗しても,モデリングの探索を試み続ける.協力的な環境は,親睦的な行動や学業達成にも貢献する.

エビデンス

学習環境1-3 Communities Educating Tomorrow's Scientists (COMETS)

U.S. National Science Foundationの出資によるウェストヴァージニア州の放課後プログラム.スタッフが特定の領域に興味や専門性をもっている生徒や,1日の終わりに疲れた生徒,家庭の問題に直面しておりケアが必要な生徒,自己表現の機会が必要な生徒などをもてなしている.

学習の様子

気象学を学習する場面で,子どもたちはハリケーンの映像を見た.ファシリテーターは子どもたちと机のまわりに車座に座り,ハリケーンについて何を知っているか訪ねた.ある8歳の男の子は,ハリケーンのように机のまわりを回転してみせたあと,犬たちがハリケーンのなかで暮らしている様子を話はじめた.ファシリテーターは笑顔で相づちを打ちながら,男の子が話をすべて聞き,その後に別の子に話をふった.

2 若者の興味,経験,文化的実践に応じたものである

多くの若者はSTEMを日常生活とのつながりがほとんどない孤独な営みと考えている.STEMが意義ある活動とみなせるよう,若者がすでにもっている興味や経験を理解し,プログラムをレスポンシブにすることが重要である.

2-1 STEMを社会的に意味があり,文化的に重要だと位置づけている

STEMを地域の課題と結びつけたり,参加者の文化的資源や実践を活用することでプログラムの可能性は拡大する.ここでいう文化的実践とは,言説のパターン(例:会話のオーバーラッピング,バイリンガリズム,メタファーの使用,問いかけ),家庭のスキルや実践(例:裁縫,貯金,大工仕事や修理),信念体系などである.自らをSTEM学習者と自認していない若者でも,社会や地域の課題に取り組む過程で,知識や能力を得ることのできる存在と位置づけられる.

エビデンス

学習環境 Native Science Field Centers

Hopa Moutain and Blackfeet Community Collegeが開発するプログラム.地域環境の観察や測定を行うと同時に,部族の伝統文化についても学ぶ.親,教師,部族の長老が寄付や,知識の共有,ボランティアを行っている.

学習の様子

収穫活動では,まず参加者が輪になり,自らの言語で,タバコのめぐみを感謝する祈りをささげた.これを通し,若者は,伝統が母なる地球との互恵関係を意味することを学び,STEMへの自己効力感と出身コミュニティがもつ文化的知識の価値を得た.

2-2 協調,リーダーシップ,当事者意識を支えている

アイデンティティの発達と学習には深い結びつきがあり,特に協調的な実践共同体に参加することで,実践に結び付いたアイデンティティと帰属意識が育まれる.問題基盤型学習(problem-based learning)は若者それぞれの興味やスキル,ネットワークを活用する機会を与え,課題解決型学習(project-based learning)はプロジェクトの進展にしたがって若者が新たな役割を担うことができる.課題解決型学習は性質上時間と場所に特有のものとなるので,学校外の環境に適している.

エビデンス

学習環境 Green Energy Technology in the City (GET City)

ミシガン州ランシングで,工学設計の放課後プログラムとサマープログラムを提供.エネルギー問題について探索し,創造的な解決策を設計し,仲間や地域住民,地域機関に対してエネルギー問題を教える機会となる.

学習の様子

あるプロジェクトでは,都市のヒートアイランド現象が地域の健康にもたらす影響を調査した.調査し,地域住民と関わり,結果をタウンホールミーティングで発表する機会に若者は地域アドボカシー活動として関わったが,その過程でSTEM概念やデータの分析と表現を行い,STEMに対する有能感も育んだ.

2-3 スタッフを若者とともに調査し,学ぶ者と位置づけている

効果的なプログラムの基準を満たすためには,スキルがあり面倒見のよい大人による支援が必須である.プログラム参加者の強みと興味を理解し,自分にとって意味のある問いに取り組むよう促す関係性によって支援が行われる.こうした関係性は,大人が「what-if」質問をする「共調査者」になり,「失敗」は学習と科学的探求の基礎であると投げかけることで育まれる.

エビデンス

学習環境 Oakland-based Youth Radio

14歳から24歳までの若者が,科学ストーリーのレポーターや技術開発者の役割を担う機会を得るプログラム.大人と若者のあいだで柔軟に役割が変わる.プログラム活動には,授業とワークショップ,ピア・メンタリング,National Public Radioのためのレポート活動(大人との協力による有給活動)が含まれる.大人と責任を共有しあうなかで,若者たちはジャーナリストとしての能力だけでなく,STEMに関する理解も深める.

学習の様子

Young Radio Investigates (YRI) プログラムでは,若者は科学者とともに身近なSTEMに関する事柄についてデータを調べ,ラジオプロデューサーとともに信頼できる情報源を同定し,主要なメディア支局でレポートする.ある若者は自身が神経症に悩まされたため,心的外傷後ストレス障害についてレポートすることに,プロデューサーもそれをニュースストーリーにするのを手伝った.それを通し,若者はSTEM概念を理解し,STEMに対するポジティブな態度を育み,コンピュータプログラム関連のスキルを獲得した.

3 学校外,学校,家庭,その他の環境でのSTEM学習をつなげる

若者は,ある環境で身につけたSTEMに対する理解や実践を,ほかの環境にも持ちこむ:学校と学校外活動,家庭と学校外活動,学校外活動のあいだ.効果的なプログラムは,自分が学校外で得た経験が,学校を含むほかの環境での学習や活動にいかに結びつくのかを理解させてくれる.組織間の協調やパートナーシップによって,学校と学校外のプログラムの結びつきをうながされたり,様々な環境での若者の発達をモニターしたり,機会どうしのネットワークを築いたりすることが可能になる.だが,経済的に周縁化された地域,農村地域,移民地域の親たちは,有望な道筋や機会へのアクセスをもたないため,子どもたちに仲介することができない.

エビデンス

3-1 様々な環境での学習経験をつなげている

これまでの学校外STEMプログラムのデザイナーは,なるべく「学校ぽくならない」「大人は関わらない」ことにこだわってきた.しかし,面倒をみてくれる他者の存在は学習にとって必要である.大人を学習者主導の学習を積極的に支援する者として位置づけ,学校/学校外の二分法から抜け出す必要がある.そして,学校外で学んだことが他の状況でも意味があるよう子供たちが意識できたほうがよい.学校外STEMプログラムはスタンドアロンでも目的地でもなく,充電スタンドである.

エビデンス

学習環境:Penn Academy for Reproductive Sciences

ペンシルバニア大学が提供する6週間の土曜日プログラム.10~12年生の女子が,リプロダクティブ・ヘルスへの興味を探求し,その分野の専門家から直接学ぶことができる.参加者は,ハンズオンの実験を通して発生生物学への理解を深めることができる.科学文献を分析し,倫理的なシナリオについて議論することも求められる.

学習の様子

毎週のレッスンでは,高校の生物の授業で教わる概念との結びつきを強化するよう設計されている.DNAの構造と機能や,形質の遺伝や変異,遺伝病などの抽象概念を実験や臨床場面での患者のケアに用いる機会が提供される.プログラムは教師と若者たちとネットワークを築き,関連する学校のカリキュラムや生活経験がスタッフに伝えられるようにしている.卒業生はサマーリサーチやインターンシップによって,学んだ内容を発展させることもできる.

3-2 地域のリソースやパートナーシップを活用している

学習生態系パースペクティブに牽引され,地域組織は若者のSTEM学習を複数の状況を横断して支援かつトラッキングするために,パートナーシップを築こうとしている.パートナーの選び方,仕事とコミュニケーションに明確な線を引く方法,落とし穴の避け方などについては豊富な知見がある.その一方で,コラボレーションが若者にもたらすアウトカムの知見は少ない.ただ,ミュージアムと学校のパートナーシップに関する近年の博士論文では,パートナーシップをうまく築ければ新しいタイプの学習環境を生み出せることが示唆されている.ニューヨーク市では,Urban Advantageプログラムが,公立学校と市立科学機関(ミュージアム,動物園,科学センター)とパートナーシップを築いている.

エビデンス

学習環境:SYNERGIES

オレゴン州ポートランドのプロジェクト.オレゴン州立大学,4-H Youth Development(ポートランドメトログループ),Math, Science, Engineering, and Acievement Program,Girl. Inc.,Oregon Museum of Science and Industry,Multnomah County Library,Pixel Arts,ポートランド港がパートナーシップを築く.ポートランド東部のParkroseに居住する中低所得の若者のためのSTEM教育システムをつくろうとしている.

学習の様子

Parkrose高校のサイエンスプログラム,ポートランド港当局(空港を含む),主要放課後プログラム(School Uniting Neighborhoods Program)の教育者は,SYNERGIESのコーディネーターにファシリテートされながら,若者がエンジニアリングに関与できる体験を開発した.またこれにより,若者の興味と参加についてのデータが集まりつつある.

3-3 追加のSTEM学習機会へ積極的に仲介している

複数の状況を横断した学習を仲介することで,STEM学習者の多様性を促進できる.仲介(ブローカリング)とは,若者が活動を選択するのを助ける機会やネットワークを積極的に同定することを指す.不動産のブローカーと同じく,若者やその家族に,潜在的に面白そうな選択や機会,そのために必要な準備を知らせることができる.たいてい家の近くに利用可能なSTEMリソースは存在する.

若者は興味やスキルを発達させるために,潜在的な学習経験をいかにナビゲートしていくかについて支援を必要としている.積極的なブローカリングには,より進んだプログラムに導くこと,インターンシップや徒弟として学ぶ機会を確保してやること,専門家や重要人物に紹介することなどが含まれる.クラブでリダーシップを発揮し,若者がSTEMの知識を表現しやすくすることも含まれる.ブローカリングによって若者のパーソナルネットワークは拡大する.ブローカリングを行うためには,地域に存在するSTEM学習のリソースについて知っておく必要がある.また知っておくだけでなく,他のプログラムのリーダー,K-12の教師,親などと関係を結ぶことも必要かもしれない.地域レベルの学習資源の地図をつくることも助けになる.

エビデンス

学習環境:STEM Guides

The Main Mathematics and Science AllianceがMaine 4-Hや地元組織とのパートナーシップが立ち上げ.田舎に居住する10~18歳の若者と,利用可能なSTEMリソースのあいだに結びつきをつくることを目的にしている.地元の大人数人をSTEM Guidesとして採用・訓練し,若者をリソースにつなげる.Teen Science Cafeのような対話形式も活用する.

学習の様子

人口4000人規模の田舎町で,あるSTEM Guideは16歳の若者に出会い,彼がエンジニアリングに興味があることを発見した.STEM Guideの薦めで若者は地元のユースリーダーシップチームに参加し,若者向けのサイエンスカフェを組織した.彼は最初のゲストスピーカー(あるデザインエンジニア)を選ぶ手助けができた.次のステップとして,STEM Guideは彼にエンジニアリングサマーキャンプの存在を教え,後に彼はSTEM Guideにキャンプに参加するための推薦状を書いてくれるよう頼んだ.無事彼は採用され,キャンプに参加できた.現在彼はthe Rochester Institute of Technologyへの進学を計画している.

共通する課題:スタッフの能力

以上の判断基準を満たすかどうかは,プログラムデザインだけでなくフロントラインのスタッフの行動にも左右される.スタッフのバックグラウンドは多様で,かつ転職率も高いので,高品質の学校外STEM労働力を発展させることや,効果的な専門性開発活動をデザインするのは難しい.

学校外STEMファシリテーターやインストラクターの専門性開発はさまざまなエリアをカバーすることが求められる:思想や概念を明確な理論的根拠をもとに提示すること,新しい実践を示すこと,スタッフの経験や熟達を活用すること,実践とフィードバックの機会を提供すること,活動中の支援とフォローアップトレーニングを提供すること,スタッフメンバーとメンターをつなぐこと,スタッフ間のコラボレーションを涵養するため計画時間を使うこと,リソースとマテリアルでトレーニングを拡張すること,STEM領域の内容と実践や子供と若者の発達に関する理論を学習する機会を提供すること.

エビデンス

学習環境:4-H

学校外STEMプロバイダーで,スタッフのファシリテーション能力開発に注力している.110年のハンズオン科学教育の歴史を有し,2007年にはNoyce Foundationとパートナーシップを提携した.地域の4-H教育者やボランティアの専門性開発方略のためのパートナーシップである.

学習の様子

4-Hは地域のスタッフが利用できるマテリアルのセットを開発した.様々な教育的・職業的バックグラウンドをもつボランティアのトレーニング利用できるもので,探求型学習やSTEM概念,若者の発達について理解を促進するようなマテリアルが含まれている.

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